グローバル科学トピック


グローバル科学トピック:003

November, 2008

日本人科学者3人がノーベル物理学賞を共同受賞!
(2回シリーズ:第2回)

スウェーデン王立科学アカデミーは10月7日、今年のノーベル物理学賞を3氏に授与すると発表しました。

南部陽一郎氏

南部陽一郎氏(米・シカゴ大エンリコ・フェルミ研究所名誉教授)
photo by BetsyDevine(CC : Some Rights Reserved.)
受賞理由:「素粒子物理学と核物理学における自発的対称性の破れの発見(1961年)」



小林 誠氏益川敏英氏小林 誠氏(写真左)
(高エネルギー加速器研究機構原子核研究所名誉教授)
 益川敏英氏(写真右)
(京都大学基礎物理学研究所名誉教授)
photo by KEK
受賞理由:「クォークが自然界に少なくとも3世代(6種)以上存在する事を予言する対称性の破れの起源の発見(1973年)」


受賞者枠3人の同賞を、日本人(→南部氏は米国籍ですが...)の科学者3人が独占する史上初の快挙!として、新聞やニュースで繰り返し報道されましたので、皆さんもご存知ですね?当グローバル化学トピックでは、先月と今月に渡る2回シリーズで、この日本が世界に誇る3人の偉人が「ノーベル賞を受賞した理由」を、(キャラバン流『超訳!』で、コナゴナにかみ砕いて!)解説いたします。

第2回目の今月は「物理学界の予言者」の異名を持つ南部陽一郎博士の「自発的対称性の破れ」って一体なんのこと?の解説です。

「自発的対称性の破れ」の例

自発的対称性の破れ
南部博士が提唱した「自発的対称性の破れ」を表す身近な例として、たとえば図のような正円のテーブルに並べられたコップの絵があります。また、ノーベル賞を授与するスウェーデンの王立科学アカデミーの公式サイトでは、芯を下にして立ったエンピツの絵を使って「自発的対称性の破れ」を説明しています。

現在の物理学では、宇宙は「ビッグバン」という大爆発によって始まったと考えられています。でも、そのビッグバンでは一体「なにが」大爆発したのでしょうか?それは、これ以上ないほど純粋な「エネルギー(あるいは「光」)」です。そのエネルギーには、現在私たちの周りに存在するすべての物質を作るだけのエネルギーが詰まっていました。その莫大なエネルギーが針の先より小さな1点に凝集している(集まっている)状態から、ある日、大爆発を起こして四方八方に向かって「『宇宙』という名の空間」が広がり始めたのです。

エネルギーが1点に凝集していた時、「宇宙の卵」であるエネルギーの温度は実に1兆度(!)。また、どの方向から見ても同じに見える「完璧な対称性」を有していました。ですが、ビッグバン直後からどんどん温度が下がり、温度が下がると共に対称性が崩れ始め、またその純粋エネルギーから様々な粒子が飛び出してきました。これらの粒子が長い年月をかけて集まり、やがて私たち人間を含む物質が形成されるようになります。

エンピツの例で言うと、芯を下にして立っていたエンピツ(高温の宇宙の卵)が倒れ、対称性が破れる(方向が定まり、温度が下がり、粒子が生じる)ことになった、ということです。


ちなみに、宇宙が始まった時のエネルギーの温度は1兆度という大変な高温でしたが、それから137億年を経た現在、宇宙空間(真空)の温度は「−270.4度」と測定されています。また、宇宙空間の「真空」は「何もない、空っぽの空間」ではなく、単に最低エネルギー状態の空間(=安定したエネルギーの基底状態)であることを意味しており、実際には何もないどころか!生成されては消滅する種々の粒子たちが充満する「場」であることがわかっています。

宇宙は「不安定」から「安定」に向かい続ける

不安定から安定へ...
さて。では、なぜ完璧な対称性を有する宇宙の卵は、その対称性を破って爆発したのでしょうか?

...それは、その方が「安定」するから(=自然だから)だ、あるいは「すべての運動は、エネルギーの基底状態へと向かう」というのが南部博士の「自発的対称性の破れ」の概念(の超訳!)です。

エンピツの例を見てみましょう。私たちが普段使っているエンピツは、自然に、図のように芯を下にして立つことはありません。尖った芯を下にしたエンピツは非常に不安定なので、誰かが支えていない限りすぐに倒れてしまいます。この現象が「自発的対称性の破れ」に関して物語っているのは、次の4つの事実です。

芯を下にして立てたエンピツは、ぐるり一周どの方向から見ても完璧な線対称である(=どこから見ても同じ)

だが、芯を下にしてエンピツを立てておくためには、支える力(エネルギー)が必要(=エネルギーの励起(れいき)状態)

倒れたエンピツは、見る方向によって六角形や長方形に見え、もはや線対称ではない(=一つの方向が選択されている)

だが、倒れたエンピツは「安定」し、支える力(エネルギー)がなくても倒れたまま(=エネルギーの基底状態)


つまり...

どこから見ても同じ完璧な対称性を持ち、かつ莫大で不安定なエネルギーが1点に凝集」していた宇宙の卵は「一定の方向性を持つよう対称性を破り、莫大で安定したエネルギーが無限に拡散する」宇宙へと姿を変えたのです。


対称性が破れると「一定の方向性が確定する」ことは、上のテーブルの例で言うと、一人が右のコップに手を伸ばすと、残りの3人が皆、右のコップの水を飲むようになること(そうしないと、皆にコップが行き渡らない)で理解できますね。

また、完璧な対称性を持ち、方向性を持たないエネルギー(宇宙の卵)は、「大いなる総てであって、何か一つのものではない状態」とも解釈できます。すると、対称性が破れ方向性が定まることで初めて、「大いなる総ての部分である、何か一つの物質」が誕生できることも理解できるのではないでしょうか。

水は、分子が一番激しく動いている(温度が高い、エネルギーが高い)状態では「蒸気」ですが、分子の動きが遅くなると(温度が下がる、エネルギーが下がる)と「水」になります。そして、分子がほとんど動かなくなると(さらに温度が下がる、さらにエネルギーが下がる)と「氷」になります。こうした物理現象を「相転移(そうてんい)」と言います。

宇宙の始まりにもこれと似た仕組みで、1兆度のエネルギーから、温度が下がるにつれて粒子と反粒子が飛び出してきました。ですが、そのままでは対生成・対消滅を繰り返して光に戻ってしまい、いつまで経っても物質を形成する「原子」ができません。ところが、ここでもこの対生成・対消滅の「対称性(CP対称性)」に破れが生じ、対消滅の際にほんの少しだけ粒子のほうが多く残る方向性が選択されたことにより、物質の溢れる現在の宇宙ができたことは、先月の第1回でご紹介した通りです。


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