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グローバル科学トピック


グローバル科学トピック:011

May, 2010

小惑星探査機「はやぶさ」の帰還

7年間、総飛行距離60億kmもの旅路を終えて、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰ってきます!


「はやぶさ」のイオンエンジン

みなさんが今までに行った一番遠い場所は、どのくらい離れたところにあるでしょうか?

今住んでいる都道府県内から出たことがないよ!という場合は、数十〜数百kmくらいでしょうか?日本国内ならどんなに遠くに行ったことがあるとしても3000km以内、世界一周したことがあるよ!という人は4万km、月まで飛んだことがある人(?)なら、38万4400kmという距離になります。

ところが、それらとは比べものにならないほど遠く、なんと地球から3億kmの遙か彼方まで旅をしてきたのが、日本製の小惑星探査機「はやぶさ」です。その「はやぶさ」がこの6月、ついに地球に帰って来ます!これまでに要した時間は実に7年。総飛行距離は、なんと60億kmにおよぶそうです!

「はやぶさ」とは?

太陽系には、太陽と惑星、準惑星、衛星、そして多くの小惑星、彗星などの小天体が存在することがわかっています。「はやぶさ」は、その中の小惑星を探査する目的でつくられました。小惑星からそのかけら(サンプル)を持ち帰ること(サンプル・リターン)が、はやぶさの大きなミッションのひとつです。
でも、なぜ小惑星を探査するのでしょうか?

地球や月とは違い、小惑星には誕生したときの姿がそのまま残されていると考えられています。もしも、そのかけらを地球に持ち帰って詳しく調査することができれば、太陽系がどのようにできたのか、初期の地球がどのような姿だったのかを知ることができると期待されているのです。

宇宙空間に無数にある小惑星は、火星と木星の間にある「小惑星帯」と呼ばれる空間に多く存在することがわかっていますが、今回「はやぶさ」が探査してきたのは、地球の軌道の近くを通るラッコのような形をした小惑星、「イトカワ」です。

ラッコのような形をした小惑星、イトカワ

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…余談ですが、この探査機の「はやぶさ」という名称は、「上空から舞い降りて獲物を捕らえるハヤブサのように小惑星の表面に舞い降りて、かけらを持ち帰れますように」と、願いをこめてつけられたそうです。一方、小惑星「イトカワ」は、日本のロケット開発の父として有名な、糸川英夫博士(1912 - 1999)にちなんでつけられました。

さて、先ほども書いたとおり、「はやぶさ」は遙か3億km彼方のイトカワからそのサンプルを持ち帰る、という大事な使命があります。皆さんなら、サンプルを持ち帰るために、どのような装置を考えますか?

ドリル型?シャベル型?それとも、とりもち型?きっと色々な装置を思いつくと思います。開発者の方々も同様で、20種類以上のアイデアがあったそうです。でも、このサンプル採取装置は、ひとつの重大な条件を満たさなくてはなりませんでした。それは…

イトカワの表面が砂や砂利のようにやわらかくても、あるいは一枚岩のように固くても、どんな形状、材質であっても絶対にサンプルを採取できること!


「わからないことだらけ」に応えるサンプラーホーン

サンプラーホーン今まで、小惑星からサンプルを採ってくる!などという目標は、どこの国のどんな宇宙プロジェクトでも行われたことがありません。つまり、お手本はどこにもないのです。サンプル採取装置は、アイデアも含めて完全にオリジナル、まさにゼロからのスタートになりました。しかも、イトカワの表面がどのような形状をしているのか?は、行ってみるまでわかりません。たとえどんな形状、材質であっても対応できる装置とは、いったいどんな仕組みになっていれば良いのでしょう?

開発過程では、いくつかの候補の模型をつくり、試作して無重力状態を含めたさまざまな環境で実験が繰り返されました。そして最終的に、はやぶさに搭載された「サンプラーホーン」にたどり着いたのです。その仕組みを簡単にご紹介しましょう。

サンプル採取中のはやぶさ(想像図)サンプル採取中のはやぶさ(想像図)はやぶさに搭載されたサンプラーホーンは、小惑星に接触すると金属の弾丸を秒速300mの速さで地面に撃ち込み、小惑星の表面をくだきます。イトカワ表面の重力は地球の数十万分の1程度しかありませんから、くだかれた破片は舞い上がってホーンの中を反射しながら昇っていき、ホーンの奥にある容器に格納される、のです。

…ところで、このサンプラーホーン開発担当の矢野創博士は、次のように話しています。

「はやぶさ」は、アニメやSF映画やゲームではありません。宇宙が好きなオトナたちが作っている現実のものだということを、今の子どもさんたちに是非わかってほしいなと思います。私たちの世代が「はやぶさ」ミッションを行うことができたわけですから、次の世代を担う皆さんは、必ずもっとすごいことを自分たちの頭と手を使って生み出せると思います!


今まで誰も作ったことのない宇宙空間で働く採取装置を実際に作り上げた矢野博士にこう言ってもらうと、なんともワクワクさせられますね!

ところが、実際に宇宙に飛び出してからの「はやぶさ」には、様々なトラブルが待っていました。そのため、無事イトカワには到着できたものの、実際にサンプルが採取できたのかどうか?は、実はまだわかっていません。地球に帰ってきてからのお楽しみ、なのです。

「はやぶさ」の帰還とその後

2003年5月9日、イトカワをめざして打ち上げられた「はやぶさ」には、サンプル・リターン以外にもたくさんのミッションがありました。たとえば、新技術イオンエンジンの実証実験や、探査機が自ら判断して動く自律航行などがそうです。それらを次々と見事に達成してきた「はやぶさ」ですが、その旅路は決して易しいものではありませんでした

イオンエンジン3つある姿勢制御装置は、うち2つが故障、途中で燃料が漏れてしまったため化学エンジンは使えず、地球とも一時連絡がとれなくなりました。故障した2台のイオンエンジンを地球からの遠隔操作で接続し1台として使うなど、できることを全てやって、使える機能を全て利用して、あわや地球に戻れなくなるかも!?という致命的なトラブルを乗り越えてきたのです。おかげで、当初の帰還予定からは3年も遅れてしまいましたが、それでも「はやぶさ」はもうすぐ帰ってきます!

サンプルが入っているはずのカプセルは、6月13日、日本時間の23時頃、オーストラリアに着陸する予定です。

5月25日現在、「はやぶさ」の地球までの距離は8,737,980 km。3億kmも離れた場所から戻って来たことを考えると、もう目と鼻の先ですね!最後まで頑張り続けた「はやぶさ」と、これまでそれを支えてこられたチームの皆さんに拍手を送りつつ、無事地球に戻るまでしっかり見守りたいと思います!

参考:
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
「サンプル採取の成功を信じて」
Twitter:Hayabusa_JAXA

写真提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)


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