グローバル科学トピック:短信
February, 2009
アメリカでES細胞研究が活発化!
Photo: CC3.0 The Obama-Biden Transition Project先月のグローバル科学トピック「不思議なフシギな万能細胞」でご紹介した、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)に関連したニュースが入ってきました!
アメリカでは、ブッシュ前大統領が倫理的観点から2001年に受精卵を壊してヒト胚性幹細胞を作ることを禁じて以来、万能細胞に関する実験を行うことができず、永らくこの分野が停滞していました。これに対し、1月に第44代・合衆国大統領に就任したオバマ大統領は、昨年の選挙キャンペーン期間中からこの政策を転換することを表明。このほど、さっそくES細胞研究に向けて連邦予算を解禁することを検討していることが明らかになりました。
また、カリフォルニア州に本社があるバイオ企業ジェロン社が、今夏、世界初となるES細胞を使った臨床試験を行う予定であることを発表しました。この試験は、事故などで脊髄に損傷を受け歩けなくなった患者10人程度を対象に、安全性を確認することが目的ですが、ES細胞によって損傷した神経細胞が復活するか?歩行能力が回復するか?といったことも調べるとしています。
自分自身の細胞をもとに、壊れた組織を再生することで疾病を根本から治せるかも知れない万能細胞。先月もお伝えした通り、未来の医療を牽引する可能性を秘めたこの万能細胞は、日本も最先端を走っている国の一つです。今後も目が離せません!
グローバル科学トピック:006
February, 2009
人工衛星が衝突!:デブリ(宇宙ゴミ)問題を考える
史上初の人工衛星同士の衝突で改めて判明した、地球上空の困ったこまったゴミ(宇宙デブリ)問題。
2009年2月10日、シベリア北部の上空790kmの宇宙空間で、アメリカとロシアの人工衛星が衝突事故を起こしました。衝突したのは、アメリカの衛星携帯電話会社イリジウム社が所有する66機の商業通信衛星のうちの1つ「イリジウム-33」と、ロシアの軍事通信衛星「コスモス-2251」(1993年に打ち上げられたあと、すでに機能を停止していた廃棄衛星)という2つの人工衛星でした。
空高く、地上から800kmほども離れた高度から地球を眺めると、とても広い範囲を見渡すことができ、また、その地点から得たさまざまなデータを地上に送ることができます。このことから、現在までに通信用(電波を中継し送る)、気象観測用(各地の雲の動きなどを観測する)、偵察用(各国の動静を監視する)など、さまざまな用途と目的を帯びた衛星が打ち上げられ、日々の生活や仕事あるいは軍事活動に利用されてきました。人類が初めて人工衛星を地球の周回軌道に乗せることに成功したのは、今からほんの60年ほど前の話ですが、現在までにおよそ6,000機におよぶ人工衛星が打ち上げられ、このうち約900機が現在も稼働中です。
人工衛星には上記の通りさまざまな用途がありますが、「地球上を観察する」という目的は同じです。そのため、すべての人工衛星はこの共通の目的に適した高度=地表から800kmほど上空の宇宙空間に向けて集中して打ち上げられます。ところが人工衛星には、搭載した機器の経年劣化に伴う寿命があるほか、姿勢を制御するスラスター(推進機器)用の燃料がなくなると、もうそれ以上は使えません。この使えなくなった人工衛星はどうなるのでしょう?
寿命を迎えた人工衛星は、最後のスラスター出力を使って周回軌道を離脱させ、大気圏に突入させて燃やすか、あるいは他の衛星の邪魔にならない、より高い高度(静止衛星が周回している地表上空36,000kmより更に数百キロ上空=通称「墓場軌道」)へと導くことにより廃棄することが国際条約で定められています。が、実際にこの操作が成功するのは全廃棄衛星中およそ1/3程度で、残りは制御不能なゴミとなって漂っているのが現状です。
宇宙空間には、これら廃棄衛星のほかに衛星のカバーや多段式ロケットの分解破片など、人為的なゴミがたくさん漂っていますが、こうした宇宙ゴミのことを「スペースデブリ(spacedebris/以下、デブリ)」と言います。デブリは『ただそこにある』のではなく、超高速で地球のまわりを回っているため、ほんの数センチの大きさのものでも、その他の衛星と衝突すれば壊滅的な被害が出る非常に危険なゴミです。そのため、アメリカの国防総省や各国の航空宇宙局では、サイズが5cm以上のデブリをレーダーで捕捉すると同時に目録を作って監視し続けているそうですが、現在すでにその数は17,000個以上にのぼるそうです。
人工衛星は、地球のまわりを回り続けるために秒速8km(=時速約29,000km!)という超高速で飛行し続けていますが、重量685kgのイリジウム-33と、重量900kgのコスモス-2251が衝突した今回の事件では、音速の何倍も速い衝撃波が発生し、二つの衛星はこなごなに砕け散って飛散。新たにおよそ700個の大きなデブリと、数万個に及ぶ小さなデブリを発生させてしまいました。これらのデブリは今後10,000年に渡り、すでに各国の人工衛星でごった返している高度800km地帯を中心に、500〜1,300kmの広範囲に渡る宇宙空間を超高速で漂い続けることになりそうで、NASA関係者によると『これはまさしく最悪の事態!』だそうです。
ここでいう「最悪の事態」とは、ある許容量を超えてデブリが増えてしまった場合、デブリ同士が衝突してさらに無限のデブリが連鎖反応的に発生すること(デブリの自己増殖)によって地球上空にまんべんなく宇宙ゴミが散乱した「デブリ帯」ができてしまい、ロケットや人工衛星などが宇宙に出て行けなくなる!ことを意味しています。こうした事態は今を去ること30年以上前に、すでにNASAのドナルド・J・ケスラー博士により提唱されていました(俗に「ケスラーシンドローム」と呼ばれます)が、ここにきて、この最悪の事態がにわかに現実味を帯びてきてしまったわけです。
ちなみに、1998年から世界各国が協力して建設が続けられている「国際宇宙ステーション(ISS)」は、高度370kmと比較的地表に近い宇宙空間に位置しているため、今のところ今回の衝突事故によるデブリの飛来による被害の心配はなさそうです。
それにしても。地球上でも宇宙空間でも、人間の活動は常にゴミを発生させるのですね...