「不思議だなぁ...」と思うことが、科学する心の第一歩です。みんなが毎日便利に使っている機械の内側には、そんな不思議の秘密がぎっしり詰まっています。「キッズのためのQ&A」では、タカハシ博士とコーラ隊長が、皆さんから寄せられたコピー機、プリンター、ファックスについての質問にお答えします。なぜだろう?不思議だなぁ!と思ったら、ここをクリックしてメールで質問を送ってください。
静電気、光、その他に関する質問
玉川 迅くん、中島健嗣くんからの質問:
「レーザーの仕組みを教えてください」
「レーザーはどうやって出しているのですか?」
この質問は少々難しい質問ですね。 ですが、「仕組み」を知りたい、理解したいということは、素晴らしいことです。 大変よい質問ですが、この質問に対して簡単に回答しようとすると、わかったような、わからないような、消化不良の回答になってしまいそうです。
そこで、回答内容が少々難しくなりますが、科学的な本質を外さないように回答することにいたしました。 高校生くらいになったら理解が進むと思いますので、今は良くわからなくても結構ですから、大まかな理解ができるように回答に目を通していただければと思います。
まずは、普通の光と比べてレーザー光にはどのような特徴があるのか?その特徴がどのように役に立っているのか?といったことを前半で説明します。 そして後半で、レーザー光を発生する「仕組み」について説明いたします。
レーザー光は、他の光、たとえば太陽の光や電球の光、ローソクの光、LEDなどの発光ダイオードの光などとは全く違う、人工的に制御して作られる「人工の光」です。 それに対して、他のさまざまな光を「自然光」といいます。
● まず、普通の光(自然光)について理解しましょう。
光は「電磁波」の一種、つまり波です。そして、真空中を1秒間に30万kmの速さで進みます。
また光は、自然界においては、光の進行する軸に対して360度すべての方向に「偏波面」を持っていて、波長も380nm(ナノメートル=10億分の1m)から780nmの範囲の波を含んでいます(青テキストの7ページ参照)。
これらから光の波の状態を絵にすると右のようなイメージになります。 この図は、色々な波長の波が混ざり合っていて、規則性がなく無秩序な状態を表しています。 レーザー光以外の光は、すべてこのような状態で存在します。
太陽光は、それぞれ振幅の違う380nmから780nmの範囲の波長光を含んでいるので、このイメージのようになることがなんとなく理解できます。 ですが、一つの波長からなる光(単色光)では、どうなるのだろう?と思うかもしれませんね。 一つの波長の光の場合も右に示しました。波の振幅が一種類の光ですから、波長(波の高低)は同じですが、各波が互いにずれているので、やはり一貫性のない、無秩序な状態になっています。 このように波長がずれていることを『位相がずれている』といいます。
● それではレーザー光はどうなっているのでしょうか。
レーザー光は各波が、同じ波長(単色、つまり同じ振動数)で、かつ各波が揃った(波の位相があっている)同じ方向をもった光です。
言い換えれば、各波が完全に同じで、全く区別のできない状態で進行する光をレーザー光といいます。 これを絵にすると、右のようなイメージになります。
レーザー装置とは、このような波を作る装置です。
● レーザー光の優れた特徴について
このような性質をもつレーザー光には、普通の光と異なった多くの優れた特徴があります。 それらの中から代表的な特徴を二つほど紹介し、その特徴がどのように利用されているのか、紹介しましょう。
特徴その1:指向性(一方向にまっすぐに進む能力)
レーザー光は細いビーム状になっており、ほとんど広がりません。一方、私たちが日常接している電球や蛍光灯のような自然光は、ほとんど指向性がなく、四方八方に広がってしまいます。
ミニ知識!:アポロ11号の宇宙飛行士が人類として初めて月に降り立った時(1969年7月20日)、一辺が約46cmの鏡を100枚つなげた「レーザー反射装置」を月の表面の「静かな海」に設置しました。 地球上から約38万km離れた月に向かって発射されたレーザー光は、月の表面に到達した時、およそ2〜4km程度の範囲しか広がらなかったそうです。 この結果、それ以降、地球と月との距離を1m以下の誤差で測定できるようになりました!
レーザー光の中でも特に指向性が高いのは、He-Ne(ヘリウムとネオンの混合ガス)レーザー光です。 直径が1mmのHe-Neレーザーの赤い光(波長633nm)は、100m先でも直径6cm程度の小さな直径を保っているそうです。
レーザー光のこの優れた指向性は、地球と人工衛星、大気の分析、海底トンネル工事、高層ビルの建設などに利用されています。
特徴その2:集光性(光を小さな点に集められる能力)
電球や蛍光灯の光は、色々な方向に拡散するため、レンズで集光できるのはほんの一部でしかありません。 つまり、自然光の光源では、どれだけ性能の良いレンズを使っても、光源以上のエネルギーを集めることはできないのです。
これに対してレーザー光は極めて指向性が良く、一方向へ直進しますから、レンズで集光すると波長の数倍程度の小さな点に集光することができます。
このようにレーザー光は小さな点に光を集光させることができる為、レンズの焦点でのエネルギー密度(単位面積あたりのエネルギー)が非常に高く、すべてのレーザー光を微小なポイントに集め、極めて高いエネルギーを発生させることができます。 これまで、レーザー光のように、数μm(μm=マイクロメートル=0.001ミリメートル)の小さな点にエネルギーを集めることのできる熱源はありませんでした。
どのくらい凄いかといえば、たとえば0.005WのHe-Neレーザー(波長633nm)を集光した場合、約100,000W/平方cmのエネルギー密度が得られることになります。 これは金属をも簡単に溶かして切断できるエネルギーです。
地球上での太陽光のエネルギーを直径1cmのレンズで直径0.1mmに集光すると、そのエネルギー密度はたかだか100W/平方cm程度で、これは新聞紙が焦げる程度ですが、レーザー光だと鉄板を溶かしての溶接や切断をはじめ、もっとも硬い鉱物であるダイヤモンドでも加工することができるのです。 今ではこうした金属や鉱物の加工だけでなく、医療や美容分野にも広くレーザー光が利用されています。
● レーザー光を作り出す「仕組み」
質問である「レーザーの仕組み」の説明に移りますが、これは中学生の皆さんには難しい説明になります。 といいますのは、光が発生する「仕組み」について話すには、電子や原子についての説明をしなければなりません。 ですが、電子や原子の勉強は、高校の「物理」で習うようですので...。 でも、今はわからなくても、高校生、大学生ぐらいになったら判るようになりますので、大体のイメージだけつかんで頂ければと思います。
今まで、レーザー光はどんな光なのか、どんな特徴があるのかを説明してきましたが、レーザー光と、その他の光とでは、光の発生する「仕組み」が全く異なります。 自然界ではありえない「人工の光」といわれるのも、ここに理由があるのです。
まず、原子について見ていきましょう。
● 原子
すべての物は「原子」という「物質の最小単位である粒子」で、できています。
現在までに113種(文部科学省/2006年4月発行「一家に1枚周期表」第3版)の「化学元素」と呼ばれる原子の元が確認されています。 このうち92が自然界に存在し、その他は高エネルギーの加速器や原子炉を使って実験室で作られたものです。 これら実験室で作られた原子は重い元素であり、重い元素は非常に不安定(放射性をもつ)なので、自然界には多くは存在しません。
あらゆる物質は、どんなに複雑であろうと、生命体(動物や魚など)であろうと非生命体(金属や石など)であろうと、これらの元素の結合体(組み合わせ)です。 また、原子には年齢がありません、皆さんの体を作っている原子は宇宙のはじめから存在していたものです。 それらは繰り返し形を変えて、数限りない生命体や無生物の間を渡り歩いてきたものです。
また、原子はものすごく小さいです。 あまりにも小さいので、原子は見ることのできる姿をもっていません。 顕微鏡をいくら改良しても、原子を「見る」ことはできません。
物が目に見えるためには、光が物にあたり、その物からの反射光が目に返ってこなければなりませんが、原子は可視光線の波長より小さいために光が原子に当たりません。 つまり反射光ができないのです(逆に言えば、物が見えるためには、物の大きさが可視光の波長よりも大きい必要があります)。
それでは、その原子の構造はどのようになっているのでしょうか?
● 原子構造
原子は物質を形作る最も小さな粒子です。 その原子の中心部には、プラスの電気をもった「陽子」と、電気をもたない「中性子」からなる「原子核」という部分があります。 そして、その原子核の周りには、原子核と同じ量の、ただし反対の電気=マイナスの電気をもった「電子」と呼ばれるものが回っています。
原子核の中の陽子のプラス電気と、電子が持つマイナス電気とは量が同じで符号が反対ですから、お互いに打ち消しあってゼロになるので、物を外から見ると電気的には、プラスでもマイナスでもなく、電気の性質を全く示さないものに見えます。
水素は最も単純な元素であり、1つの陽子と、その周りを回る1つの電子からできています。 ヘリウムは2つの陽子と2つの中性子からなる原子核と、その周りを回る2つの電子でできています。 リチウムは三つの電子を持っています。
これを絵にしたものが原子模型図で、右図のように表しています。
電子は核の周りを軌道を描いて回転しています。 それは軌道というより、核からさまざまな距離のところにある同心球殻の中を動き回る「波」と呼んだ方が良いものと考えられています。 最も内側の殻には最大2個の電子が存在できます。2番目の殻には8個まで、3番目の殻には最大18個までの電子が存在できます。 86個以上の電子をもつ原子内には、全部で7つの殻があります。
こうした基本的な原子の構造を知ったうえで、光がどのように発生するか、光の発生する仕組みを説明します。 光は原子・電子の状態と密接に関係しているのです。
● 光の発生(自然光の発生)
原子に電子を当てて衝撃を与えたり、光を照射したり、温度を上げたりすると、原子の最外殻を回る電子がエネルギーを得て、より高いエネルギーレベルにある外側の軌道に持ち上げられます。 このように、電子が高い軌道にある原子の状態を「励起(れいき)状態」と呼びます。
この励起された状態の原子は「不安定な状態」なので、電子は短時間でもとの低い軌道である安定した状態に戻ります。 このように、あるエネルギー状態から他のエネルギー状態へ変化することを「遷移(せんい)」といい、高いエネルギー状態から低いエネルギー状態に電子が遷移する時に『光を放出する』のです。
原子が励起状態にとどまる時間は0.00000001秒程度(10のマイナス8乗秒)で、極めて短い時間しか励起状態に留まることができません。 このように外部からの力なしに電子が遷移する際の光の放出を「自然放出」とよび、放出される光を「自然光」と呼んでいます。
このように、励起状態にある原子が低いエネルギーレベルに移る時、エネルギーレベルの差に相当するエネルギーを自然光として放出することになりますが、放出するエネルギーが大きければ波長の短い光(青っぽい光)となり、放出するエネルギーが小さければ、波長の長い光(赤っぽい光)となります。 光は波長の短い光ほどエネルギーが大きいのです。
これは一個の原子の場合ですが、たとえば空気なら、空気中には酸素原子や窒素原子などが無数に存在し、向きもあらゆる方向を向いています。 それらの原子から放出される光は、波長もいろいろ含まれ、位相も方向も揃っていませんから、一貫性が無く無秩序な集まりの状態になります。
私たちが日常接している太陽や蛍光灯、電球や黄色のナトリウムランプ、ネオンサインなどの光は、すべて自然光です。
● レーザー光(人口の光)について
自然の光が発生する「仕組み」がなんとなく判ったところで、いよいよレーザー光が発生する「仕組み」について説明していきます。 なお、原子の励起状態をいちいち原子模型で描くと面倒なので、下のような図で説明します。
原子がもっとも安定な状態を「基底準位」といいます。 そして外部から光や熱などのエネルギーをもらって励起した状態を、そのレベルの高さに応じて励起準位「E1」とか「E2」とかの記号で表します(E1よりE2のほうがエネルギー準位が高い)。
水素の原子模型と対比して見てください。
上の図を使って光の自然放出の状況を図で示すと、下の図のようになります。
外部からエネルギーをもらった励起状態を表したのが左の遷移前の図であり、E2からE1に遷移して光を放出している図が、右の遷移後の図です。
● 原子が励起する励起準位を制御する
レーザー光は波長が同じでなければなりませんので、レーザー光を作るには、ある元素で環境をまとめなければなりません。 たとえば上に出てきたHe-Neレーザー(波長633nm)はHe(ヘリウム)とNe(ネオン)の気体を封じ込めています。 そして外部からエネルギーを与えた時に、原子が励起する励起準位も同じにしなければなりません。
このことが次のような操作によって可能になります。
右図のように、エネルギー準位「E1」にある原子に、E2ーE1のエネルギー差に等しいエネルギーを持った光(波長)が入射すると、原子は光を吸収してエネルギー準位「E1」から励起準位「E2」に遷移します。 これは光の自然放出プロセスと逆のプロセスであり、これを「誘導吸収」または単に「吸収」と呼びます。
● E2からE1に、一斉に強制的に遷移させる
レーザー光は光の位相が揃っていなければなりません。 そのためには、自然光のようにまちまちに遷移されては困るので、一斉に強制的に遷移させる必要があります。 これを次のような操作で行っています。
右図のようにエネルギーレベルE2の励起状態にある原子に、E2ーE1のエネルギーを持った光が作用すると、励起状態にある原子は光に刺激されて、強制的にE2の励起状態からE1の元の状態に戻されます。 すでに述べたように、励起準位が遷移する際には原子から光が放出されますが、この誘導吸収の反対のプロセスを、「誘導放出」といいます。 そして、このとき発生する光は、入射された光と同じ位相、同じ波長(振動数)を持って放出されます。
ここで、難しい課題があります。
レーザー光を連続して発生させる為には、誘導吸収と誘導放出が継続して起こり続け、しかも誘導放出が勝っていなければなりません。 もし原子のほとんどがE1の状態にあれば、光の吸収のほうが誘導放出を上回ることになり、このような状態ではレーザーが継続して発振することができません。 発振させるためには、原子のほとんどが常にE2の状態でなければならないのです。
ミニ知識!:レーザー光を発生させる、この誘導放出についての考え方は、すでにアインシュタインによって1917年に予言されていましたが、このような難しい課題のために、技術的には比較的最近になり、ようやくレーザー光の持続的な発振が可能になりました!
● He-Neレーザーの例で、レーザーの「仕組み」を説明します。
カラーカピー機に使われているレーザーは半導体レーザーといわれるものですが、これまで説明してきた内容と関連付けて理解しやすい「ガスレーザー」であるHe-Neレーザーについて、基本的な仕組みを説明します。
レーザー光は単色の波長の光です。 He-NeレーザーからはNe(ネオン)の赤い光(波長633nm)が発生します。 それなら、このNeガスだけで良いように思えますね。 どうして、NeとHe(ヘリウム)を混ぜたガスが入っているのでしょう?
実は、こうすることで「誘導放出が誘導吸収より勝っている状態を作り出す」という、上に書いた難しい課題を解決する工夫を行っているのです。
順番にレーザー光が発生する仕組みを説明しましょう。
(1)He-Neレーザーでは、85%のHe(ヘリウム)と15%のNe(ネオン)の混合気体を耐熱の管に入れて、両端に高電圧をかけます。
(2)高圧電流が管内を流れると、HeもNeも励起され、すぐに元の状態に遷移しますが、その際、He原子の中に、励起状態から脱するのに時間的遅れが発生するものが出ます(遅延現象)。 このため一時的に管内には、遷移して元の状態に戻ったHeと励起Heが混在することになりますが、これらの励起He原子は「準安定」な状態と呼ばれ比較的安定しているため、結果的に励起He原子がかなりの割合で存在することになります。 これら励起Heは管内を動き回り、Neに対してエネルギー源として振舞います(Neは励起Heのエネルギー値に極めて近い、準安定な状態を持っているのですが、普通はそのエネルギーをなかなか取り出すことができません)。
(3)励起He原子が基底状態にあるNe原子と衝突すると、HeはそのエネルギーをNeに与え、Neを準安定状態に引き上げます。 この過程が次々に進み、励起したNe原子の数はまもなく基底状態のNe数を超過します。
(4)あるNe原子が励起状態から遷移して管内に赤い光を放出すると、この放出された光が他の励起したNe原子に刺激を与えて自分と正確に位相のあった光を放出させます。 不規則な方向に放出された光は、管から外に飛び出していきます。
(5)管に対して平行に放出された光のみが、管の両端に向かって平行に置かれた、特別にコーテイングされた鏡で反射されます。 反射された光子はまだ残っている他のネオン原子を刺激して光を放射させ、このようにして同一の波長(振動数)と位相、及び方向の揃った光が「なだれ現象」のように発生していきます。
(6)光は反射鏡の間を素早く往復し、その都度増幅されます。
(7)光子のいくつかは、部分的にしか反射しない(つまり、一部を透過する)一方の鏡から、外へ「漏れ出て」きます。これがレーザー光です。
以上が頂いた質問に対する回答です。
レーザーの仕組みは少々難しい質問であり(事実難しいのです)、そのため説明内容もどうしても難しくなってしまいます。 今は理解することが難しくとも、高校生や大学生になって読み返えしたときに役に立つと思います。 まずは、前半に書いたレーザーの特徴やその特徴をどんな所に役立てているかを知っていただければ充分です。