「不思議だなぁ...」と思うことが、科学する心の第一歩です。みんなが毎日便利に使っている機械の内側には、そんな不思議の秘密がぎっしり詰まっています。「キッズのためのQ&A」では、タカハシ博士とコーラ隊長が、皆さんから寄せられたコピー機、プリンター、ファックスについての質問にお答えします。なぜだろう?不思議だなぁ!と思ったら、ここをクリックしてメールで質問を送ってください。
静電気、光、その他に関する質問
三上雅偉くんからの質問:
「自然界に黒の色はないと聞くのですが本当ですか?」
まず、私たちが日常的に黒色として呼んでいる色についてお話しします。
黒色というのは無彩色で、赤とか緑とか青といった色味を持ちません。また、私たちが目に感じる光の波長範囲全域で、光の吸収や反射が特定の波長に対して高くなったり低くなったりしない色です。
これは灰色も同様で、反射率が低ければ黒っぽく見え、反射率が高ければ白っぽく見えるのです。しかし、反射率が何%以下なら黒、何%以上なら灰色といった基準があるわけではありません。
私たち技術者は、黒とか灰色といった呼び方ではなく濃度(濃さ)で表現しています。たとえば、コピー画像の黒や灰色は濃度計という計測器を使って、濃度で表しています。濃度計は、反射光を測定して濃度に変換し、表示する測定器です。
この濃度計の仕組みを参考までにお話ししておきます。
図のようにYという光を照射し、画像から反射する光をYmとすると、Ym/Yは反射率(R)となります。この反射率(R)と濃度(D)との間には、下図に書いた式が成り立ちます(この式の意味は高校の数学の時間で習いますので、今は理解する必要はありません)。大切なことは、反射率と濃度は密接な関係にある、ということです。
この式を使って画像の濃度と反射率の関係を調べると、左の表及びグラフに示した値が得られます。反射率が低い画像は濃度が高く黒が強く見えますが、反射率の高い画像は濃度が低く白っぽく見えます。
コピー機などで作られる黒の画像の濃度は1.4〜1.6です。このときの反射率(パーセント)は上の表から、約2.5〜4%程度であることがわかりますね。
もっと完全なる黒に近づけるために濃度を1.7〜2.0に高めようとすると、反射率を約1〜2%程度に低く抑える必要がありますが、これがなかなか難しいのです。反射率を限りなくゼロに近づければ、濃度は限りなく高く濃くなっていきますが、現実には限界が生じます。と云うのも、画像表面の光沢(つや)などにより一様に反射される光が少なからずあるからです。この反射光が1〜2%もあると、濃度は1.7〜2.0で限界となってしまいます。
このように、反射率との関係で完全なる黒を考えると、完全なる黒とは「照射された光をすべて吸収してしまう、反射率0%の色」ということになりますね。では、まったく反射がない物体はどのように見えるのでしょうか。
図に示した黒色をした物体は、角柱であることがわかります。角柱だと解るということは角柱からの反射光があるということですね。角柱の各面から反射してくる光の違いによって、物体が立体的に見え、角柱であることが解るのです。
もしこの物体が完全なる黒色で照射した光がすべて吸収され、反射光が全くなかったら、次の図のように見えるでしょう。反射光がありませんので、物体の凹凸などは認識することができません。一様に黒いだけですね。ですが、物体の周囲からは反射光が目に入ってきますので、外形の形状はわかります。
以上のような理由で、自然界に完全なる黒は存在しないと云われているのです。三上さんの質問は深い意味を考えさせる質問ですが、反射率との関係で回答させていただきました。