「不思議だなぁ...」と思うことが、科学する心の第一歩です。みんなが毎日便利に使っている機械の内側には、そんな不思議の秘密がぎっしり詰まっています。「キッズのためのQ&A」では、タカハシ博士とコーラ隊長が、皆さんから寄せられたコピー機、プリンター、ファックスについての質問にお答えします。なぜだろう?不思議だなぁ!と思ったら、ここをクリックしてメールで質問を送ってください。
コピーの仕組みに関する質問
時藤寛基くんからの質問:
「なぜ直接インクで色をつけないのですか?」
紙に直接インクをつける(色をつける)方法もあるのですが、時藤さんが実験で使ったコピー機は、紙に直接インクをつけてはいませんでした。 感光体という装置にトナーという粉のインクをつけ、それを紙に移していました。
ここで、二つの疑問が生じますね。
- なぜ紙に直接インクをつけないのか(色をつけないのか)?
- なぜ液体のインクではなく、粉のインクを使っているのか?
時藤さんの質問には、この両方の疑問が含まれているように感じましたので、それぞれに対して回答したいと思います。
まず、どうして紙に直接インクをつけないのか? ですが、紙に直接インクをつける機械として、インクジェットプリンタという製品がよく知られています。 一般のご家庭にあるプリンタは、大体このインクジェットプリンタといわれるものです。 これは色のついた液体インクの粒を紙の表面に飛翔(ジェット)させて、画像を形成することからインクジェットプリンタと呼ばれています。
それに対して、オフィスで使われているコピー機やプリンタは、もちろんインクジェットプリンタも使われていますが、ほとんどは電子写真方式と呼ばれる技術を使ったコピー機やプリンタです。 これは紙に直接インクをつけるのではなく、まずインクを感光体につけ、その後、紙に移す方法を採用しています。
これら電子写真方式の機械では、なぜ紙に直接色をつけないのか?というと、インクジェットなど紙に直接記録する方式では、画像を作るスピードが遅いのです(=プリントに時間がかかります)。
紙に直接、色を付ける方式では、プリントする原稿に合わせて、いちいちインクの粒を一つずつ作り、飛ばさなければならないので、時間がかかり遅くなるのです。 これについては、この回答ページの後半でインクジェット技術について紹介しましたので、興味がありましたら読んでみてください。
対する電子写真方式では、均一に帯電した感光体表面に、高速に回転するポリゴンミラーからレーザー光を照射し、いっぺんに1ページ分の露光を終えるため、短い時間で潜像(原稿の濃淡を表す静電気の像)を作ることができます。 このマイナスに帯電した静電気の像に、プラスの静電気を帯びたトナーを含んだ現像剤を均一に接触させることにより、現像が完了します(トナーの像が感光体上に作られます)。 これを紙に移して(転写)、定着することで、短時間に画像を作り上げることができます。
紙に直接インクを付けるやり方では、インクの粒を一つ一つ作っていく必要がありますが、感光体にインクを付けるやり方では、レーザー光を感光体に照射することで、高速に画像を作ることができますので、画像を作るスピードが速いのです。 電子写真の重要な工程は帯電、露光、現像、転写、定着ですが、これについてはテキスト(青本:24〜27ページ)に書かれていますので、参考にしてください。
次に、なぜ液体のインクでなく粉のインクを使っているのか?ですが、実は液体のインクを使うこともできるのです(!)。
かつてはコピー機も、液体のインクを使っていた時代があります。 いまも世界のどこかで液体インク式のコピー機が使われているかも知れません。 でも、新しい機械のほとんどが、粉のインク(トナー)を使うようになっています。 その理由は、液体インクを使う装置は、粉インクを使う装置より機構が複雑で、サイズが大きく、手入れ(メンテナンス)が面倒になることが大きな理由として挙げられます。
具体的には、液体インクを使用する機種では、インクを溶かすための、あるいはインクを分散しておくための溶剤を多く使わなければならず、その溶剤が発する臭気の防止策が必要になったり、あるいは使用済み溶剤の処理の問題など、解決しなければならない課題がたくさんあります。
昔は、液体のインクの方が綺麗な画像を得やすく、今とは逆に粉のインクをコントロールする技術がなかったので液体のインクを使っていましたが、技術の進歩により、粉のインクでも充分に綺麗な画像が作れるようになり、こちらが主流になったというわけです。
以上で時藤さんの質問に対する回答と致しますが、内容的に難しい面がありますので、細かい部分まで理解できなくても、概要をわかっていただければ充分です。 また、以下にインクジェットプリンタでインク粒を作る作り方を紹介しておきましたので、興味がありましたら読んでみてください。
『参考:インクジェット技術の紹介』
時藤さんは、水鉄砲で遊んだことがありますか? 水鉄砲は引き金を指で引くと水に圧力がかかり、その圧力によって小さな穴から水が押し出される(飛び出す)仕組みになっています。
指で引き金を小刻みに引くと、それにあわせて水が断続的に飛び出しますが、インクジェットは、まさにこの原理を応用しているのです。 水鉄砲の代わりに使われているのが、インクが入った記録ヘッドです。 記録ヘッドには小さな穴(ノズルといいます)が開いていて、インクに何らかの方法で圧力をかけ、インクが小さな穴から飛び出す仕組みになっています。
インクジェット方式には圧力がかかりやすいインクが要求されますが、粉のインクでは、うまく圧力を加えることができません。 その点、液体なら、一部に加えた圧力が全体に均一に伝わります。 そこで、インクジェット方式のプリンタでは液体インクが使われます。
この記録ヘッドを用紙に近づけて、用紙の端から端まで移動させながら、ノズル(インクを吐き出す小さな穴)から連続的にインクを吐き出して、用紙に記録します。
続いて、記録ヘッドからインクを吐き出させる技術ですが、これはインクにかける圧力のかけ方の違いで、以下の二つの方式があります。
- ピエゾ素子の物理的な変形によってインクに圧力をかける(ピエゾ方式)。
- ヒーターでインクを瞬時に加熱し、発生した気泡で圧力をかける(バブルジェット方式)。
○ ピエゾ式
聞きなれない言葉が出てきましたが、次の絵を見てください。 これは記録ヘッドの断面を表わした絵です。内部にインクが入っています。そして小さなインクの吐き出し口があります。 インクに圧力がかかると、この吐き出し口からインクが粒となり、絵のように飛び出す仕組みになっています。どうしてインクが飛び出すかを説明します。
インクに圧力をかけるのがピエゾ素子というものです。水鉄砲の引き金に相当するものと思ってください。 このピエゾ素子は、電圧をかけると変形する性質があります。
「OFF」の絵は、電圧がかかっていない状態を表わしています。 電圧をかけると「ON」の絵のようにピエゾ素子がインクに圧力をかける方向に変形します。 これが水鉄砲の引き金を引いた状態に相当します。
水鉄砲で引き金を短い時間に少しだけ引くように、このピエゾ素子に短い時間だけ電圧をかけます。 すると、電圧がかかった瞬間だけ変形し、電圧が切れるとすぐ元に戻ります。 この変形→復元→変形の動作によって、インクが吐き出し口から小さな粒となって飛び出します。 電圧をかけることをONするといい、電圧を切ることをOFFすると言いますが、このON、OFFを連続的に繰り返すことにより、インクの粒が連続的に飛び出して、文字や絵を描いていくことになるわけです。
○ バブルジェット方式
お湯を沸かすとき、「やかん」や「なべ」や「ビーカー」の側面に気泡ができるのを見たことがありますか? 液体は温度が高くなると、気体に変化します。 また、熱を受けて膨張する変化の速さは、液体よりも気体のほうが大きいですね。 もし、「やかん」や「なべ」や「ビーカー」に蓋をして熱っすると、できた気泡(あわ)の体積がどんどん大きくなろうとして、「やかん」や「なべ」や「ビーカー」の内部の圧力が非常に高くなり、まだ残っている液体にも大きな圧力が加わることになります。
この気泡(バブル)の力を使って、インク粒を飛び出させる技術を「バブルジェット方式」と呼びます。
右の絵に、記録ヘッドの構造を示しました。記録ヘッドにはインクが詰まっています。 そして、小さな穴とヒーターがついています。 水鉄砲の引き金に相当するのがヒーターです。 ヒーターに電流を流して暖めると、ヒーターに接しているインクが暖められ、小さな気泡ができます。 ヒーターが熱くなるにつれて気泡が大きくなり、インクに強い圧力を加え始めます。 圧力を受けたインクは穴から飛び出しますが、この時、ヒーターの電流を切ると、温度が下がって気泡も小さくなり、インクへの圧力が減少します。 すると穴から飛び出そうとするインクの勢いが弱まりますので、飛び出したインクは途中でちぎれて、粒状になります。
短い時間だけヒーターに電流を流し(ON)、切る(OFF)。この動作を連続して行うことにより、インクの粒を連続的に飛び出させ、文字や絵を描いていきます。
液体には、一部に加わった圧力変化が全体に均一に伝わるという性質があり、コントロールしやすいため、液体インクが使われています。
インクジェット方式はインク粒子をピエゾ素子の物理的な変形や、ヒーターによる液体の熱的変化(気泡を作る)によって一つ一つ形成しなければならないため、記録スピードが電子写真方式に比べて遅くなります。 しかしながら電子写真方式に比べて、機械のサイズが小さくて済む、本体の値段が安い、といったメリットがあります。